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紅葉>英 和 辞 典 チ ョ ッ プ^^
かんなちゃん可愛いな(笑)
第一章 十六夜麒麟の巻
紅い髪が、視界の端でゆれる。おのれの足の動きに合わせて、ゆらゆらと。
藤早郷白虎の大使巖弘は、金の瞳を眇めて長い前髪を鬱陶しげに掻き上げた。
「・・・・・・」
祝賀祭というものは、早い話民が皇族を拝み崇める祭りだ。この場合重要視されるのは「いかに巫女が華やいで見えるか」ということで、ほかの地の大使はあまり用がない。平たく言ってしまえば、巫女を美しく見せる添え物、といったところか。
大使は輿を使わない。あくまでも周りを囲み従事するだけだ。同じ地の皇族である絃之や絢子は馬に乗るが、その他ー八乙女、藤早郷、宵闇宮、松築陽、鶯麗堂ーは徒歩で付き添う。
いかに春と云っても、人々の熱気や照りつける日差しで、彼の頬は常に汗が伝っていた。
「・・・い、おい、巖弘」
低い声に呼びかけられて、はっと我に返る。声がした方を振り返ると、八乙女玄武の蒼嵐が顔を覗き込んでいた。
「何だ」
「お前・・・・・・あれ、見えるか」
「?」
あれ、と蒼嵐が指差した先は麒麟殿のはずれにある塔。
「あそこに、さっき誰かがいたような気がしたのだが。・・・気のせいか?」
蒼嵐はそう呟くと、視線を前に戻して何事もなかったかのように歩きだした。
「・・・・・・・」
巖弘は眦を決すると、塔の中をじっと凝視した。が、何ものの気配も感じないことを悟るとふっと息を吐いた。
大分気が滅入っているようだ。そう思ったのもつかの間、彼は全身を緊張で強張らされた。
「――――!」
民の悲鳴が、波濤のようにこちらに押し寄せてくる。甲高い少女の声が、巖弘の耳朶を突く。
――――――矢よ!
はっとして視線を巡らせると、銀のきらめきがこちらへ飛来してくるのが分かった。
「さっきのあいつか・・・!」
呻きにも似た蒼嵐のつぶやきを聞いた時、同時に布の裂ける音、何かがひっくり返る音、少年の絶叫、琳華の慟哭、そして、――血の飛び散る音がした。
「八鹿!八鹿!」
最初に見たものは、琳華の腕に抱えられてぐったりと動かない少年。八鹿と呼ばれたその少年の胸には、銀色の矢が突きたてられている。白い礼服には彼のものと思しき血が、どくどくと染みを作っていた。
いつも穏やかな琳華の泣き叫ぶような声に呼応して、八鹿がうっすらと瞼を開く。
「八鹿!ごめんなさい、こんな・・・」
優しく抱き抱える琳華に、少年はふるふると首を振った。
「貴方に、怪我などさせられ、ません・・・・・・」
八鹿の大きな瞳に、大きく破かれた琳華の衣装が映る。それを認めて、八鹿はぐっと唇をかんだ。
「ああ・・・お召、ものが、ごめん・・・なさい・・・・・・」
それきり何も言わずにそっと目を閉じた八鹿に、琳華はなおも呼びかけた。
「・・・八鹿・・・・・・?」
「・・・・・・」
はたはたと涙をこぼして従者を−従者の骸を−、掻き抱く巫女に、皇族たちはかける言葉を失う。
「・・・」
巖弘の瞳が、これ以上ないほど見開かれる。一度に開いた瞳孔には、おぞましい焔にも似た憤りと、怨みと、――絶望が称えられる。
「あ・・・・・・」
白く長い指が、激しく震え、そして。
「―――――――――!」
声にならない絶叫をあげ、彼は腰に佩いていた太刀をすらりと引き抜く。驚異的な速さで地を蹴ると、塔へ我武者羅に駆けだした。
「あ、ちょっと巖弘ぉっ!?」
流石に焦った色を見せた馨美が手を伸ばすも、時すでに遅し。彼の姿は人ごみにまぎれて見えなくなっていた。
***
「・・・フフ、うまくいったな」
高い声音には、狂喜の色が宿っている。
「ああ、勿論だ」
いっそ優しげに、愉しげに。
「ゆっくりと蝕まれるがいいさ」
穏やかに言い聞かせるかのように。
「・・・楽になんて、死なせない」
そんな背筋の凍るような台詞も、その声のもとでは優しい救いの声にもとれる。
「いつまでものさばっていられると、思うなよ」
ただ、それだけが。その言葉だけが、氷もかくやというような冷たさを孕みおぞましさを醸し出して。
うっそりと嗤うその瞳が、艶やかな紫色に煌く。
「上手くいったな、――――紫苑」
***
激昂した彼の瞳は、憤激で炎のような真紅に輝いていた。
髪と色を同じくするその瞳は、ぎらぎらと仇を探している。
「何処だ・・・!」
薄い唇から洩れるその声も、いつもの彼からは想像もつかないほど感情が露になっている。
「琳華様に矢を射った、その罪赦し難し」
風が強い。風が彼の赤い髪を遊ばせる。否、彼自身が風を巻き起こしているのだ。
「出てこい・・・・・・!」
右の瞳から、たらりと。
黒い液体が零れおちた。それは、どろりと白い頬を撫ぜるものは、彼の右目が流す涕だった。
藤早郷白虎が大使、巖弘。
彼の右目は、現皇族唯一の邪眼だった。
あとがき
ふー・・・ようやく敵サイドの1人の名前が出せました。
既に諸バレだと思うのですが、ウチは敵サイドにどうしても愛情を込めてしまいます(笑)
八鹿は一回こっきり登場キャラなので、今後出てくることはほとんどないかと。
巖弘君、敵の次に大好きです(←
おまけ
巖弘(みねひろ) *藤早郷白虎(ふじさのさとびゃっこ)の大使。21歳。
右目に邪眼を持つ。剣の腕は随一だが、切れると感情的。普段はかなり寡黙。
赤毛に金の瞳をもつが、感情が高ぶると赤瞳に変貌。右目は黒い涙を流す。
蒼嵐(そうらん) *八乙女玄武(やおとめげんぶ)の大使。32歳。
常に穏やかで、馨美や絢子の言い争いを仲裁できる、皇族で2人目の人。
灰白の髪を耳の位置で括り、瞳は灰がかった黒。
馨美(きよみ) *松築陽朱雀(しょうちくしすざく)の大使。16歳。
自由奔放元気爆発天真爛漫。「わがまま姫君」の異名を持つ。絃之がお気に入り。
茶褐色の髪を短く切りそろえて淡い黒い瞳をもつ。
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