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蒔嵯峨帝国物語

 投稿者:朔夜  投稿日:2009年 1月17日(土)10時14分5秒
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  朱菜>やほう久しぶりに更新だよww
ネタ頭の中で練ってたww



第一章 十六夜麒麟の巻

「あなたも、とくべつなめをもっているの?」
優しげな大きな瞳が、邪気なくそう聞いた。好奇の目にはうんざりしていたから、彼はふいと視線を反らした。
「わたしもね、ほかのひととはちがうめをもっているのよ」
少年の瞳がわずかに揺れる。金の瞳が、拠り所を探すように。
「・・・おまえは、おれとはちがう」
少年は幼いながら、己の瞳が邪悪で、少女の瞳が清廉なものであることを知っていた。
だから、彼女に背を向けた。しかし少女は屈託のない声で笑った。
「ちがわないわ、とくべつどうし」
「・・・・・・」
顔を向けないのは、彼女の前向きな考えが羨ましいから。
「ね、だからいっしょよ」
「・・・・・・」
振り返らないのは、彼女の明るさがまぶしいから。
「・・・みねひろ?」
そう、全て少女のせいだ。
頬を伝う、温かいもののせいではない。
瞳を濡らす、冷たいものを見られたくないからでは、ない。

それはごくまれに思い出す、遠い過去の記憶。
今はもう、彼の記憶から呼び起こすこともない。
「・・・・・・・・・」
彼は必死に重たい瞼を押し上げた。
最初に目に入るのは、鮮やかな黒い髪。
「・・・気が付きました?」
「・・・・・・」
頷くことも、口をあけることもできない。だから彼は、少し瞼を伏せた。
琳華はうっすらと微笑を浮かべると、周りにいた侍女たちに声をかける。
「巖弘に、白湯を持ってきてください。それと、念のため藤早郷に連絡を」
「はい、琳華様」

医務室。本来皇族の城にその部屋は必要がない。皇族は滅多なことでは傷つかず、病もろくに縁がないからだ。
しかし皇族に仕える侍官たちは生身の人間である。彼らの休息のため、割と最近になって新たに作られた。
侍女たちが医務室から出ていくと入れ違いに、茶褐色の髪の少女が飛び込んできた。
「巖弘起きた?」
琳華はそっと頷くと、巖弘の枕元の長椅子に腰かける。横に馨美もすとんと滑り込み、男の顔を眺めた。
「珍しいこともあったもんだわ。おかげで止めるのが大変だったのよ」
良く見れば、少女の短い髪はいささか乱れている。頬には薄いかすり傷が無数にあり、礼服は無残に裂けていた。
「お疲れ様でした。社務室で休んできてもいいのですよ?」
「いやよ、あそこには絢子がいるんだもん」
「・・・」
馨美の言い分に、琳華はただ苦笑するしかない。
実際絢子も多大な負傷を癒す必要がある。その状況で二人を同じ部屋に置いておくのはあらゆる意味で危険かもしれない。
「では、巖弘を見ていてくれますか?私は少し用がありますので」
「分かったわ」
琳華が医務室から出ていくと、少女はふぅとため息をついた。
実際大変だったのだ。
「それもこれも、あんたが暴走するからよ、巖弘」

     ***

彼がいたのは、十六夜の地はずれにある茂みだった。
瞳孔の開いた瞳は、常の黄金ではない。彼の髪と同じ、炎のような、血のような真紅。
「みねひ――・・・っ」
駆け寄ろうとした馨美は、渦巻く妖気の奔流に跳ね飛ばされた。遅れて駆け付けた絃之が少女を抱きとめ、妖気の渦の中心にいる男に厳しい視線を向ける。
「巖弘・・・」
お前は、また暴走したのか。
「止めなくては・・・!」
蒼嵐が太い声で唸った。いつも飄々としている風情の凪辰も頷き、神気の波動を増幅させた。
「・・・っ」
そのまま妖気の渦に放ち相殺しようとするが、彼の神気は暴走した邪眼の力に敵わない。
神気は妖気に呑み込まれ、凪辰に跳ね返ってきた。
「ぐ・・・・・・・・・っ」
もとより華奢な凪辰はふわりと宙を舞い、そして常緑樹の根元に叩きつけられる。
「凪辰!」
妃瑚が絶叫し、彼を背に妖気の渦を包む込むように結界を押し広げる。
妖気が爆発する寸前に結界が閉じられ、邪眼の力は内で暴れまわった。
「邪眼の力は、人を喰らう」
絃之のただならぬ声が、その場を一瞬で緊張に凍らせる。
「もし鎮めなければ、巖弘は確実に死ぬ」
「とめ、ないと」
必死に起き上がろうとする馨美に絢子はつかつかと歩み寄ると、額を思い切り指弾した。
「つっ!」
「あんたには無理。さっき妖気に触れている時点で、大分消耗してるから」
「そんな、ことない・・・」
「普段の半分も口が回ってないやつが、偉そうに言うんじゃない」
絢子は結界に視線をやると、毅然とした口調で言い放った。
「――私が、行く」
言いきると同時に、地を蹴って腰に佩いた剣を引き抜き結界の中に飛び込む。彼女の姿は、黒い靄に薄らぎ、そして見えなくなった。
「・・・なんて無謀な」
絃之がつぶやく。絢子は確かに麒麟のなかでも直系に最も近い血筋で、相当の力もある。
だがそれが邪眼にかなうかというと、それは一概に認められるわけではない。
「宵闇宮青龍に至急連絡をとれ、神祇官と神維、巫女を呼べ!」
宵闇宮は、宗教的に最も発展した地である。神職を志願する者は、みな青龍の地へ赴く。
中にはかなりの神力を持っている者もいる。数勢が力を利用すれば、邪眼と対抗するだけの力はあるだろう。
「でも、今からじゃ・・・」

間に合わない。

誰もが絶望を感じた瞬間、不意に結界がかき消えた。妖気ももはや感じない。
「・・・・・・?」
訝しんだ絃之が目を凝らすと、先ほどまで邪眼の力が荒れ狂っていたその中心に、血の気の引いた死人のような体の巖弘と、無数の傷を負い血を流した絢子がくず折れていた。

     ***

「絢子はもうすっかりぴんぴんしてるけど、巖弘はまだまだね」
馨美はすることもなく、茵に横たえられた男の顔を眺めた。
「早く起きてよ・・・聞かなきゃいけないこともたくさんあるんだから。誰も」
あんた以外の誰も、何が起きたのか知らないんだから。


あとがき

ふぅ。疲れた・・・←
三点リーダ多いですな。
今回は敵さんは出ません。巖弘もろくに台詞がないし。
巖弘と琳華は幼少時宵闇宮の神殿に隔離されていたことがあったのです。最初の方のやり取りは、そこでの出来事でした(笑)
巖琳はもしかしたらこの物語の中で一番好きなCPかも。次が凪妃、絃馨、かな?
あとこの話はNL限定で!(何


おまけ
凪辰(なぎよし) *宵闇宮青龍(よいやみのみやせいりゅう)の大使。23歳。
   ほけっと笑って腹黒い。男にしては相当な華奢。
   金茶の髪はざんばらで短く、瞳は深い青紫。

妃瑚(ひめこ)  *鶯麗堂鳳凰(おうらいどうほうおう)の大使。20歳。
   穏やかな顔立ち、物腰、語り口調ではあるがしたたかで打たれ強い。
   白に近い金の髪で、ゆるやかに波打っている。瞳は藍色。

紫苑(しおん)  *黒い髪に紫の瞳をもつ謎の男。帝国を滅ぼそうと企んでいる。
   帝国のある地はそもそも己が崇める者のものであったと主張するが・・・。
 
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